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釧路地方裁判所北見支部 昭和46年(ワ)5号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

但書

一、本件事故の態様

原告が昭和四三年一〇月一七日午前八時頃常呂郡留辺蘂町字瑞穂丸山一号の沢林道工事現場(以下、本件事故現場という)で、被告加納孝雄の運転するダンプカー(以下、本件ダンプカーという)に衝突され、左骨盤骨折、左大腿骨脛部骨折の傷害を負つたことは、当事者間に争いがない。

そこでまず、本件事故がいかなる状況下にいかなる経過をたどつて発生したかにつき判断する。

<証拠>を綜合すると、次の事実を認めることができ、右認定に反する原告本人の供述部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(一) 本件事故現場の状況

本件事故現場は常呂郡留辺蘂町字瑞穂丸山一号の沢林道入口より西方約2.5粁山中に入つた林道上の地点で、付近の道路は北側の丘陵斜面、南側の沢に狭まれ、斜度約6度、巾員約3.6米で、その道路南側沿いに巾員約2.4米長さ約2.0米の車輛離合用の待避所が付設されていた。そして当時、本件事故現場は、上手(西方)林道新設工事現場に砂利を運搬する都合上、右待避所の南側沿いに設けられた側溝を埋めさらにその外側の若干の空地に土盛りして、砂利運搬車の方向転換の場所に利用されていた。

(二) 本件事故発生の経過

被告加納は本件事故当日早朝より被告長野建設株式会社のダンプカーの運転手として、同被告会社の請負つた前記林道新設工事の施行に従事し、本件ダンプカー(車長5.5米、車巾2.2米)を運転し、本件事故現場下手約五〇〇米の場所に推積してあつた砂利を同所で積載し、本件事故現場で方向転換のうえ、後進して約一〇〇米上手の林道新設中の工事現場までこれを運搬していたところ、同日午前八時頃本件事故現場で方向転換の途中、前夜来の降雨でぬかるみ地盤のゆるんでいた前記待避所の側溝に本件ダンプカーの左後車輪をめり込ませ、自力で脱出することができなくなつた。これを付近でみていた現場監督者の高田正三は、直ちに林道上手で被告加納の運搬した砂利の散布作業に従事していた原告を含む前記被告会社の女子作業員三名を呼び寄せ、一旦は人力の助けで引揚げようと試みたが到底不可能と判断し、前記砂利推積所においてショベルローダーで砂利積込み作業をしていた訴外東海林和男に連絡し、同車を持ち込ませてその牽引力で本件ダンプカーを引揚げさせ、その跡を本件ダンプカーの方向転換に支障を来たさないよう積載してあつた砂利の半分位をその場に下させ、原告外二名の女子作業員に被告加納らも手伝つて砂利を埋め込んで地盤を固め、付近を均らさせた。

この補修作業を終つた後、右高田は、被告加納共々原告を含む付近の作業員一同に向つて本件ダンプカーの方向を転換させるから危険のない場所に避譲するよう指示した。この指示に応じ、原告を除く女子作業員二名その他男子作業員らは、林道中央付近に車首を上手に向い右斜めにして停車中の本件ダンプカーを隔てて上手林道上南端付近の安全な場所に避譲したが、原告一人は、本件ダンプカーの誘導をすべく反対側林道中央付近車から三米位い離れた地点に行つた前記高田に追随し、その左斜後方三米位いの地点に避譲した。被告加納は一同が避譲するのをみて本件ダンプカーに塔乗し、さらに周囲の者たちが安全な場所にいるのを確認したうえ、方向転換のため本件ダンプカーを前記待避所に向け後進させたが、一度で方向転換するに適当な位置に入れなかつたので、遣り直しをするため一旦本件ダンプカーを前進させ、林道北側沿いの側溝のきわまで車首を上手に向い右斜にして戻し、直ちに右高田の誘導で再度後進する運転操作に移ろうとした。このとき、前記高田の左斜後方付近にいた原告は、砂利散布用のショベルを肩し、上手林道南端付近に避難していた他の女子作業員らの許に合流すべく、突如本件ダンプカーの後方待避所付近を横切り始め、このためちようど後進始動し待避所に向つてカーブを切り道路にほぼ直角に入つてきた本件ダンプカーの後車体に被いかぶされるような状況となつた。この状況をショベルローダーの運転席から目撃した前記東海林は危いと叫び声をあげ、後進誘導していた前記高田も危険を直感し、即座に急停止の措置を被告加納に指示し、被告加納も直ちにブレーキを踏んだがすでに遅く、原告は後退して来る本件ダンプカーの後車体に被われて転倒し左大腿部付近に本件ダンプカーの左後車輪が乗り上げ、前叙傷害を負うに至つた。

二、被告らの責任

(一) 被告加納孝雄の責任

被告加納は、前段認定のように現場監督者高田正三と共に、本件事故現場で本件ダンプカーを方向転換させるに先立ち、周囲の作業員一同に対し危険防止のため安全な場所に避譲するよう指示し、作業員らが安全な場所に避譲したのを確認したうえ、右高田の誘導で方向転換のための一連の運転操作に入つたもので、第一回目の後退後一旦前進し第二回目に待避所に向い後退進入するまでの間、前叙の如き原告の行動に気付かなかつたとしても、本件事故現場の如くいまだ一般の交通の用に供されず作業員以外無人の林道工事現場においては、被告加納らが前記のような措置を採つた以上、原告の如く一般通行人と異り現場作業員として工事の施行中自らの注意で安全確保の責務を負つている者が、方向転換のための運転操作中であることを知りながら車の動きに注意を払わず、突始車体のすぐ後方を横切るような行動に出るとは通常一般の運転者として、またこれを誘導する者にとつて予想し難いところといわざるを得ない。

したがつて、被告加納には本件事故発生につき責めらるべき過失は存しないというほかなく、本件事故は、林道工事の作業員であり、かつ前記のような避譲の指示を受けながら、方向転換のための運転中、本件ダンプカーが前進して再び後退するまでの間に車体後方を横切れるものと軽信し、本件ダンプカーの動きに注意を払わず突如かかる無謀で軽率な行動に出た原告の一方的な過失によつて発生したと断ぜざるを得ない。よつて、被告加納は民法第七〇九条所定の不法行為による損害賠償責任を負わない。

(二) 被告村井産業株式会社、同長野建設株式会社の責任

被告村井産業株式会社は本件ダンプカーを所有してこれを自己のため被告長野建設株式会社に貸与し、同被告会社はこれを自己のために被告加納孝雄を雇傭して運転させ、もつて右被告会社らが自己のため本件ダンプカーを運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

そこで以下、被告会社ら主張の免責の抗弁について判断する。

本件事故につき運転者たる被告加納が無過失であり、本件事故が原告の軽卒な行動に基因することは既に認定したところであり、この事実に被告加納孝雄本人尋問の結果を併せ考えると運行供用者たる被告会社らは本件ダンプカーの運行に関し注意を怠らず、また本件ダンプカーには機能上の障害も構造上の欠陥もなかつた(もつとも、かかる点はそもそも本件事故発生と何ら因果関係がない)と認められる。右認定に反する原告本人の供述部分は措信しない。

よつて、被告会社ら主張の免責の抗弁は理由があり、被告会社らは自賠法第三条の賠償責任を負わない。

(尾崎俊信)

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